アインシュタイン

Albert Einstein

( 1879 - 1955 )

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1. 背景

1905年に特殊相対性理論を発表したアインシュタインは、 その2年後1907年に「生涯で最も素晴らしいアイデア」と述べるアインシュタインの等価原理を思いつきます。

車のアクセルを踏み込んだとき、運転者は後ろ向きに力がかかるのを感じることでしょう。 これは慣性力と呼ばれるもので、傍から見れば運転者が前に押し出されているのですが、 運転者自身は後ろ向きの力がかかっているように感じます。

アインシュタインは重力もこれと同じと考えました。 エレベータが加減速すればまるで重力が変わったように感じます。 スペースシャトルの中では無重力になったように感じます。 周りの様子がわからない狭い部屋の中では、重力と慣性力を区別できないと考えたのです。


2. 発見

一般相対性理論

1915年アインシュタインは一般相対性理論を発表します。 これは特殊相対性理論を発展させ、重力場についても扱えるようにした理論です。 ここで登場するアインシュタイン方程式が一見シンプルに見えるのは省略記法が使われているためで、 実際には非常に複雑で難解な数学が使われており意味を理解するのは困難です。 そのためこの式から導かれる結論だけを述べていくことにします。

以前にこの宇宙は「ミンコフスキー時空」と呼ばれる構造になっていることを述べました。 ただしこれは重力の効果がない場所での話です。 一般相対性理論では大きなエネルギーや運動量により時空自体が曲がってしまい、 まっすぐに等速直線運動している物体も曲線を描いて落下していくことになります。 これは従来ニュートン力学で重力による自由落下として説明されていた現象です。

アインシュタインは一般相対性理論により太陽の近傍で光の経路がどれほど曲げられるのかを計算しました。 1919年の日食ではその効果が実証され、一般相対性理論に関する最初の説得力のある証拠の一つが示されます。

曲がった時空

起伏のない平らな地形を地図に書くのは簡単です。 どこを中心に書いても、どちら向きに書いても同じような地図が出来上がります。 2枚の地図はぴったり重ね合わせることができるはずです。

しかし世界地図を書こうとすると少々やっかいです。 丸い地球を平面に書こうとすれば必ずどこかに歪みが生じてしまいます。 そのため世界地図には様々な図法が編み出されました。 例えば次の図は正積方位図法で書いた世界地図ですが、2枚の地図で国の形が変わってしまっていることがわかるでしょう。 もはや2枚の地図をぴったり重ね合わせることはできません。

 

曲がった4次元の時空を、平坦な4次元上に想像しようとすればこれと同じことが起こります。 地図の書き方は一つではなく様々な図法があるはずです。 そしてどのような図法を選んでも必ずどこかが歪んでしまうはずです。

歪んだ世界地図をそのまま眺めていても世界の形は把握できません。 歪んだ地図上で長さや時間を比較しても意味はありません。 歪んだ地図上では光速度不変も成り立ちません。 我々にできるのは、歪んだ地図の長さを実際の距離に直すことだけです。

2点間の距離の公式

まずは曲がっていない空間の距離について考えてみます。 平面上の2点間の距離 $Δs$ はピタゴラスの定理を使って $Δs^2 = Δx^2 + Δy^2$ と計算できることはご存知でしょう。 これは微分の考え方を用いて次のように書くこともできます。

  $ds^2 = dx^2 + dy^2$

ただしこの定理はユークリッド座標系でしか通用しません。 例えば極座標系では座標軸 $x$ $y$ の代わりに、原点からの距離 $r$ と 角度 $θ$ が使われます。 この座標系では角度 $θ$ が少しずれたとき、実際の位置は $r$ に比例して大きく変わってしまいます。

2点間の距離を求める式は次のようになります。 原点から遠ければ遠いほど、角度のずれ $dθ$ に対する実際の位置のずれ $ds$ は大きくなることがこの式から読み取れます。

  $ds^2 = dr^2 + r^2dθ^2$

以上は2次元空間での距離を求める方法ですが、3次元空間での距離は次のように計算できます。
  $ds^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2$

極座標で書くならば、

  $ds^2 = dr^2 + r^2dθ^2 + r^2sin^2θdφ^2$

ミンコフスキー計量

しかし我々の世界は3次元空間ではありません。 4次元のミンコフスキー時空間では測り方によって空間的な距離さえも変わってしまいます。 この時空間上でどのように測っても変わらない量は次の式で表される $s$。 これは我々が考える3次元的な距離とは違います。

  $ds^2 = -(cdt)^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2$

極座標で書くならば、

  $ds^2 = -(cdt)^2 + dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2 sin^2θ dφ^2$

さてここまではまだ特殊相対性理論の曲がっていない時空間での話です。 一般相対性理論では時空間そのものが曲がっているためこのようにはいきません。

曲がった時空間を平らな紙面に書けば必ずどこかが歪んでいるはずです。 時空間がどのように曲がっているかだけでなく、それがどのような図法で書かれているか、つまりどのような座標系が使われているかによっても式はまったく変わってしまうことになります。

シュバルツシルト解

1916年シュバルツシルトは、球対称で静的な質量分布の外部にできる重力場のアインシュタイン方程式の解を求めます。 これにより天体周辺での時間の遅れや、いかなる物体も光さえも抜け出せないブラックホールの存在が浮かび上がります。

  $\displaystyle ds^2 = -(\displaystyle 1-\frac{r_s}{r})(cdt)^2 + (\displaystyle \frac{1}{\displaystyle 1-\frac{r_s}{r}})dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2 sin^2θ dφ^2$
  $\displaystyle r_s = \frac{2GM}{c^2}$

ここで使われている座標系をシュバルツシルト座標系と呼びます。 $r = r_s$ の位置はブラックホールの表面を表します。

ロバートソン・ウォーカー計量

1920年代に フリードマン、ルメートル、ロバートソン、ウォーカーらによって独立に議論されていたものです。 これは一様・等方な物質分布のもとでのアインシュタイン方程式の解になります。

  $\displaystyle ds^2 = -(cdt)^2 + a(t)^2 [\displaystyle \frac{1}{1-kr^2}dr^2 + r^2 dθ^2 + r^2 sin^2θ dφ^2$]

膨張宇宙論

この宇宙には銀河があり銀河団があり密度の斑はあるのですが、ざっくりとはほぼ一様で等方と考えられています。 もしこの宇宙がどこまで行ってもほぼ一様で等方なら、この宇宙全体にもロバートソン・ウォーカー計量が適用できることになります。

1922年フリードマンは上記の解からフリードマン方程式を打ち立てます。 この方程式は、宇宙は時間とともに膨張あるいは膨張の後収縮する。 どちらになるかは宇宙にある物質密度によって決まることを示しています。

1927年ルメートルはフリードマンとは独立に宇宙の膨張速度に関する法則を発表します。 1929年ハッブルは実際に銀河が地球からの距離に比例した速さで遠ざかっていることを発見し宇宙が膨張していることを実証します。 これはハッブル=ルメートルの法則と呼ばれています。

1931年ルメートルは特異点から始まる膨張宇宙を提唱し、これは後にビッグバン理論と呼ばれます。


 


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