ローレンツ

Hendrik Antoon Lorentz

( 1853 - 1928 )

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1. 背景

マクスウェルの方程式によって光の速さは秒速約30万kmになることが導かれました。 しかし速さというものは何を基準にするかによって変わるものです。 マクスウェルが求めた光の速さは一体誰から見た光の速さなのでしょうか。

当時、マクスウェルが求めた光の速さは、エーテルに対する速さだと考えられていました。 空気が音を伝えるように、宇宙には光を伝える物質(エーテル)があると考えられていたのです。

1881年以降マイケルソンとモーリーはこのエーテルの流れを検出すべくいくつかの実験を行いました。 実験装置がエーテルに対して動いていれば、風下に向かう光は速くなり風上に向かう光は遅くなっているはずです。 そしてエーテルの流れが速いほど往復に要する時間は長くなるはずです。

1887年実験では緻密な考察と工夫にも関わらず、このようなエーテルの流れを検出することはできませんでした。 これ以降も様々な科学者によって実験は行われましたがいずれも失敗しています。

おかしなことに、実験すると光はいつどの方向に測っても同じ速さなのです。 本当に誰から見ても光の速さが変わらないのであれば、ガリレイ以来あたりまえと考えられていた相対速度の考え方が成り立っていないことになります。 これは一体どういうことなのか、科学者たちはこの謎を解くべく思考を巡らせます。


2. 発見

ローレンツ力

1892年ローレンツは、電荷が磁場の中で運動すると力を受けることを発表します。 電流が磁場から力を受けるのも導線の中で動いている荷電粒子(電子)が力を受けるためです。 電子の存在はこのとき知られていませんでしたが、1897年にジョゼフ・ジョン・トムソンが実験で発見します。

ローレンツ収縮

1892年ローレンツは、光の速さが誰から見ても変わらない理由について一つの仮説を発表します。 実験装置がエーテルが流れる方向に圧力で縮んでしまうため、どちら向きに測っても光の往復時間の差が検出できないだけだと考えたのです。 我々も装置と共に縮んでいれば、装置が縮んでいることにも気づかないはずです。

時刻のずれ

しかしローレンツ収縮という考え方だけでは、往路と復路で光の速さが違ってしまうことになります。 当時光の速さを片道ずつ正確に測定できたわけではないですが、やはりこの結論はおかしいと思われました。 ローレンツはこの問題に対しさらに大胆な考え方を打ち立てます。 装置の長さと共に時間も変わってしまうと考えればよいのです。

まずエーテルに対して止まっている実験装置を考えます。 下の図では、左端から 0:00 に出発した光が 0:30 に右端に到達し 1:00 に左端に戻ってきています。 我々はこの実験結果を見て「光はどちら向きにも同じ速さで飛んでいた」と考えることでしょう。

では実験装置がエーテルに対して動いている場合はどうでしょうか。 ローレンツの見解によれば、装置は下図のようにエーテルの圧力で縮んでいるはずです。 さらに装置の左右の時計がずれていれば、0:00 に出発した光が 0:30 に右端に到達し 1:00 に左端に戻ってくるという先ほどと同じ結果が得られるはずです。

 

装置と共に縮んでいる我々は、装置が縮んでいることに気づくことができないように、 左右の時刻がずれていることにも気付くことができないのかもしれません。 我々はやはり「光はどちら向きにも同じ速さで飛んでいた」と考えることでしょう。

ローレンツ変換

先ほどの図では左右の時計がずれているだけでなく、時計の進み方も自体も遅くなっていることに気づいたでしょうか。 光の速さが誰から見ても同じになるとすれば実験装置が縮むだけではつじつまが合いません。 時間のスケールも変わっているはずです。

ローレンツは1899年と1904年の論文で、 距離や時間がどのように変われば、光速度が一定という実験結果が得られるのかという計算式を発表します。 詳しい内容は後の章で述べますが、まずはそこから導かれる結論「物体の長さの収縮と時間の遅れ」について先に説明しておきます。

長さの収縮と時間の遅れ

物体は速く動くほど長さが収縮します。

物体が止まっているときの長さを $L_0$ とすれば、速さ $v$ で動いているときの長さは $L$ になります。 $c$ は光速です。

また物体は速く動くほど時間の進み方がゆっくりになります。

止まっている物体の経過時間を $Δt$ とすれば、速さ $v$ で動いている物体の経過時間は $Δt'$ になります。 $c$ は光速です。

これらのローレンツの計算式は、この後アインシュタインの特殊相対性理論に引き継がれます。


 


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