ギブズ

Josiah Willard Gibbs

( 1839 - 1903 )

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1. 背景

自由エネルギーにはヘルムホルツの他にギブズの自由エネルギーもあります。 どちらもそれぞれ別のシチュエーションで自由エネルギー語ったもので、 どちらが本質的というわけではありません。 基本的な考え方はヘルムホルツと同じです。


2. 発見

大気がする仕事

物体に力を加えて圧縮すれば物体の内部エネルギーは増加します。 物体の圧力に逆らって外形を変化させれば物体に仕事をすることになるからです。 そしてこのエネルギーのやり取りは人が手を加えなくても勝手に起こります。 物体の圧力が下がれば周囲の大気圧に押されて勝手に縮み、物体の圧力が上がれば周囲の大気を押しのけて勝手に膨らみます。 つまり地球の大気が勝手に仕事をしたりされたりしているのです。

しかし大気と勝手にやりとりしているエネルギーなど何か有意義な仕事に使えるわけではありません。 ヘルムホルツの自由エネルギーはこのような意味のない仕事まで律儀に計算に含んでしまいます。 なのでヘルムホルツの自由エネルギーは、圧力が変わっても体積が変わらない固体や容器に対して使うべきものなのです。

これに対し、物体が圧力一定を保つように膨らんだり縮んだりする状況で使えるのがギブズの自由エネルギーです。

一定圧力の物体ができる仕事

熱力学の第1法則 $ΔU = Q + W$ をもう一度見直してみます。 もともとこの $W$ には、大気が物体を押すというコントロールできない仕事が含まれています。 そういう何の足しにもならない仕事を除外したものを $W$ とするならば、式の内容も変わってきます。

  $ΔU + pΔV = Q + W$

次にエントロピーの法則。

  $\displaystyle ΔS ≧ \frac{Q}{T}$

この2式を組み合わせて新しい式を作ります。

  $W ≧ ΔU + pΔV - TΔS$

これ以降の話は、温度一定かつ圧力一定という条件のときのみ成り立つものなので注意してください。 物体の温度が一定、圧力も一定なら次のように書き換えられます。

  $W ≧ Δ(U + pV - TS)$

この $U + pV$ の部分はエンタルピーと呼ばれています。

$H$ がエンタルピー、$U$ は内部エネルギー、$p$ は圧力、$V$ は体積です。
エンタルピーを使って式は次のように書き換えられます。

  $W ≧ Δ(H - TS)$

$H$ の値そのものに何か意味があるわけではありません。 別の物体と $H$ の値を比べてみたり、違う圧力で $H$ の値を比べてみたりしたところでその数字にはなんら意味はないのです。

ギブズの自由エネルギー

ギブズの自由エネルギーは以下の式で定義されます。

$G$ がギブズ自由エネルギー、$H$ はエンタルピー、$T$ は温度、$S$ はエントロピーです。

ギブズ自由エネルギーは物体の温度が一定、物体の圧力が一定という条件で使える量です。 物体が一定の圧力下に置かれており、発熱してもすぐに放熱して温度が一定に保たれている環境であれば次の式が成り立ちます。

  $W ≧ ΔG$

$G$ の値そのものに何か意味があるわけではありません。 $G$ の下限は0というわけでもありませんし、物体にあとどれだけ仕事の余力が残っているかなど知ることはできません。 なので別の物体と $G$ の値を比べてみたり、違う温度や違う圧力で $G$ の値を比べてみたりしたところでその値にはなんら意味がありません。

意味があるのはその変化量 $ΔG$ です。 $G$ が増えればそのぶん仕事ができる余力が増えることになり、 $G$ が減ればそのぶん仕事ができる余力も減ることになります。

物体の状態変化

仕事の出入り $W$ が $0$ であれば次の関係式が成り立ちます。
今回は物体の体積が変わっても構いません。 ギブズの自由エネルギーを考えるにあたって、外圧が物体の体積を変える仕事(膨張仕事)は $W$ に含めない前提です。

  $ΔG ≦ 0$

等温で、一定圧力の場所では、外からエネルギーを与えない限り、 常に $G$ が減少する方向にしか状態の変化が進まないことを示唆しています。

100 ℃、1 気圧の場所では、水と水蒸気はギブズの自由エネルギーがほぼ同じです。 99 ℃ なら水の方が自由エネルギーが低いため水の方へ変化が進みます。 101 ℃ なら水蒸気の方が自由エネルギーが低いため水蒸気の方へ変化が進みます。

等温定圧での化学変化についても同様、ギブズの自由エネルギーが減る方向に反応が進みます。 25℃、1気圧では、水素と酸素より水の方が自由エネルギーが低いため水素と酸素は結合して水になります。


 


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