ヘルムホルツ

Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz

( 1821 - 1894 )

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1. 背景

ヘルムホルツはマイヤー、ジュールに並んで1847年にエネルギー保存則を発表した人物です。 1882年に自由エネルギーという概念を導入します。

熱力学第2法則によれば、温度差があるところでは熱エネルギーを仕事に変えることができます。 温度差がないところでは残念ながら熱エネルギーは何の役にも立ちません。 仕事をするためには熱以外のエネルギーを使っていくしかなく、 その余力を使い果たしてしまえばもう仕事はできないのです。

今回は、温度差を利用できない環境では、物体にどれだけ仕事ができる余力があるのか、 このテーマについて熱力学の式を紐解いていきます。


2. 発見

物体ができる仕事

まず考えなければならないのは熱力学の第1法則です。 物体が貰ったエネルギーは内部エネルギー $ $$U$ として蓄えられ、それを別の仕事に使うことができます。 その内部エネルギーを使い果たしてしまえばもうそれ以上仕事はできません。

  $ΔU = Q + W$

次にエントロピーの法則。 一旦エントロピーが高い状態になってしまった物体は、外に熱を捨てない限り以前と同じ状態に戻ることはできません。

  $\displaystyle ΔS ≧ \frac{Q}{T}$

この2式を組み合わせれば新しい式を作ることができます。

  $W ≧ ΔU - TΔS$

これ以降の話は、温度一定という条件のときのみ成り立つものなので注意してください。 物体の温度が一定なら式は次のように書き換えられます。

  $W ≧ Δ(U - TS)$

物体が仕事をされればそのぶん $U - TS$ が増え、 物体が仕事をすればそのぶん $U - TS$ が減ることがわかります。 いえ、式は不等号なので、仕事をしなくても $U - TS$ は減ってしまうかもしれません。

物体に熱エネルギーを与えても $U - TS$ の増加にはまったく寄与しません。 $U$ は増えますがその分 $TS$ も増えるためです。

そして物体の $U - TS$ がそれ以上減りようがない状態になれば、$W$ もまたマイナスにはなり得ません。 つまり仕事ができない状態になります。

ヘルムホルツの自由エネルギー

何度も出てくる $U - TS$ ですが、以降これをヘルムホルツ自由エネルギーと言い換えます。

$F$ がヘルムホルツ自由エネルギー、$U$ は内部エネルギー、$T$ は温度、$S$ はエントロピーです。

ヘルムホルツ自由エネルギーは先ほど述べたとおり、物体の温度が一定という条件がなければ使いみちがない量です。 物体が発熱してもすぐに放熱して温度が一定に保たれている環境であれば次の式が成り立ちます。

  $W ≧ ΔF$

$F$ の値そのものに何か意味があるわけではありません。 $F$ の下限は0というわけでもありませんし、物体にあとどれだけ仕事の余力が残っているかなど知ることはできません。 なので別の物体と $F$ の値を比べてみたり、違う温度で $F$ の値を比べてみたりしたところでその値にはなんら意味がありません。

意味があるのはその変化量 $ΔF$ です。 $F$ が増えればそのぶん仕事ができる余力が増えることになり、 $F$ が減ればそのぶん仕事ができる余力も減ることになります。

身近な例で、スマートフォンの自由エネルギー $F$ を考えます。 スマートフォンが満充電されていれば画面を映したり音楽を聞いたりいろいろな仕事ができます。 そして仕事をすればその分だけ $F$ は減少し仕事ができる余力はなくなっていきます。 それだけではありません、スマートフォンを使っていないときでもバッテリーは徐々に放電し $F$ は減少していきます。 そして充電が切れてしまえばそれ以上仕事をすることはできません。

要するにこの式は、「スマホで利用できる電力は、スマホに充電した電力と同じかそれより少ない」という当然ともいえる結論を表しています。 そしてその増減は $Δ(U - TS)$ と計算できるというわけです。

物体の状態変化

もう少し特別なシチュエーションでヘルムホルツの自由エネルギーを考えてみましょう。 $W = 0$ なら、式は次のように書き変えられます。

  $ΔF ≦ 0$

$W = 0$ とは、物体には熱以外のエネルギーの出入りがない、そして体積も変わらない場合です。 物体の体積変化には必ず仕事が伴うため今回のシチュエーションには当てはまりません。 またそもそもの前提条件「物体の温度は常に一定」も忘れてはいけません。 物体が発熱しても熱は外に逃げていき温度は一定に保たれている場合の話です。

このような状況では常に $F$ が減少する方向にしか変化が進みません。
容積が変わらない、等温に保たれた箱の中は、 外からエネルギーを与えない限り、何か変化が起こったら決して元の状態には戻らないということです。

光が差し込まず密閉された箱の中では植物はやがて枯れてしまうでしょう。 もしその時タネを落としていたとしても、それが成長しまた元のように生い茂ることはできないのです。


 


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