シュレーディンガー方程式




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波動方程式

水面に小石を投げ入れると、波はきれいな円形の波紋を描いて広がります。 まるで意図して描かれた模様のようです。

もちろん水面に意思はありません。 波はただ次の微分方程式に従って動いているだけです。

楽器の弦やばねの振動ように線状に伝わる波なら

  $ $$\displaystyle \frac{1}{s^2} \frac{∂^2u}{∂t^2} = \frac{∂^2u}{∂x^2}$

水面の波のように面状に伝わる波なら

  $\displaystyle \frac{1}{s^2} \frac{∂^2u}{∂t^2} = \frac{∂^2u}{∂x^2} + \frac{∂^2u}{∂y^2}$

音波のように空間上を伝わる波なら

  $\displaystyle \frac{1}{s^2} \frac{∂^2u}{∂t^2} = \frac{∂^2u}{∂x^2} + \frac{∂^2u}{∂y^2} + \frac{∂^2u}{∂z^2}$

方程式の係数 $s$ には波が伝わる速さが入ります。 水面の波であれば水深によっても違いますが水深 1m のプールで実測すれば 3m/s 程度でしょうか。 現実の波は様々な要因に影響されるため完全に正確とはいきませんが、ある程度はこの方程式に従ってシミュレーション可能です。

シュレーディンガー方程式

ド・ブロイ波はというと、残念ながら上記の波動方程式には従いません。 ド・ブロイ波が従う波動方程式それが次のシュレーディンガー方程式です。

  $\displaystyle iℏ \frac{∂Ψ}{∂t} = -\frac{ℏ^2}{2m}(\frac{∂^2Ψ}{∂x^2} + \frac{∂^2Ψ}{∂y^2} + \frac{∂^2Ψ}{∂z^2}) + VΨ$

これを見て何の感想も出てこないとしても無理のないことです。 これがどんな波かなど簡単に想像できません。 この方程式から粒子の位置や、運動量や、エネルギーが厳密に求められるわけでもありません。 そもそも位置と運動量は厳密には確定できないものです。

ただシュレーディンガーは、ある特別な条件では、粒子のエネルギーははっきり確定することを述べています。 それはド・ブロイ波が「定在波」になっているケースです。 具体的には原子に束縛されている電子や、箱の中に閉じ込められている粒子など。 この状態の粒子は、エネルギー $E$ に不確定性はなく明確な値を取っています。

  $\displaystyle EΨ = -\frac{ℏ^2}{2m}(\frac{∂^2Ψ}{∂x^2} + \frac{∂^2Ψ}{∂y^2} + \frac{∂^2Ψ}{∂z^2}) + VΨ$

ちなみに粒子のエネルギーが確定しているなら運動量も決まっていそうなものですがそうはいきません。 粒子がどちら向きに運動しているかはまるで不確定だからです。

とびとびのエネルギー

楽器の弦を弾いたとき、その振動は、基本振動、2倍振動、3倍振動… と整数倍のパターンしか取ることができません。 これはド・ブロイ波であっても同じです。 狭い空間に定在波として存在できる波のパターンは限られています。

このアニメーションは2次元の箱の中に束縛されている粒子のド・ブロイ波を可視化したものです。 箱の中の波はこのようにとびとびにしか状態を変えることができません。 エネルギーもとびとびに移り変わることになります。

水素原子の状態遷移のエネルギーがとびとびであることも同じ理由です。 原子に束縛されている電子はいくつかの決まった軌道しか取れません。 特に 1s 軌道にある電子はそれより内側の軌道に落ち込むことはできませんし、エネルギーを放出することもできません。

粒子の存在確率

それで粒子は具体的にどこにあるのでしょうか。 量子力学では粒子は特定の場所にあるわけではなく確率的にしか見つけることができません。 その確率はド・ブロイ波の振幅の2乗に比例します。 先ほどのアニメーションを確率分布に直したのがこちらです。

箱の中で粒子がどういう動きをしているかはまったくわからないのに、 粒子の位置を調べればいつもある程度決まった場所で見つかるというのは不思議です。


 


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